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河野家
「せっかくの旅行よ。夫婦で楽しんでらっしゃい」
そう言って、Annaはまさなりさん、ゆめさんとどこかに行ってしまった。3人で行くのはどんなところだろう、とちょっとした好奇心が生まれる。花はガラス細工が終わった後、さっさと家族だけで出て行ってしまった。
「さて、どうしようか」
「俺も何か作りたい!」
「何かって、」
「トンボ、作りたい」
「とんぼ玉か? さっきみんなと一緒に作れば良かったじゃないか」
「蓮と2人がいいんだもん」
(小さい子どもを連れてきた気分だ)
そう思いながらも、決まったスケジュールがあるわけじゃない。
申し込みをすると、1人ならすぐに枠が取れると言う。
「じゃ、それで」
「2名じゃないですよ」
「俺は彼の保護者です」
不思議そうな顔をする受付に素知らぬ顔をして名前と住所を書いた。
「暑いね!」
「ほんとだ」
入り口で渡されたタオルと水のペットボトルの意味が分かった。これじゃすぐに脱水状態になるだろう。
保護者がいるのは小さい子だけ。なんとなく気恥ずかしいが、ジェイといればもうその気恥ずかしい感覚も当たり前になってしまっている。
ジェイが選んだのは、マーブル柄のとんぼ玉だ。蓮が赤で自分は緑。エプロンと同じ色にした。
「これがベースの太いガラス棒です。こっちがマーブルの模様になる細いガラス棒」
そばにいる子どもより熱心に見ているジェイが可愛い(蓮視点)。
「これから熱いバーナーを使っての作業になります。皆さん、気をつけてくださいね。スタッフと保護者の方の言うことをよく聞いてください」
「はい!」
返事をしたのはジェイだけ。少し誇らしい。
ガラス棒は意外と簡単に溶けた。すぐにくるくると回さないと落ちてしまいそうだ。水あめを食べる時に割り箸に巻き付ける要領だ。回しながら少しずつ玉を大きくしていく。
「そうそう、皆さん上手ですね」
嬉しそうに蓮を振り返るジェイは本当に子どもになっている。ジェイに付いているスタッフが声をかけてきた。
「そろそろラインにする細いガラスを巻いていきましょう」
細いガラス棒を溶かしつつ、とんぼ玉に巻きつけていく。くねくねとそれなりの模様……にはなっていく。
蓮を見上げるとにこっと笑ってくれたからジェイは気を良くした。
「ほら、目を離さないでください」
「はい!」
失敗した時のために、と自分の緑を先に作ったのが良かった。赤はもっと上手に出来上がった。
「たいしたもんじゃないか」
初めてにしては出来がいい、とスタッフにも言われた。ジェイを褒めながら工房を出て汗を拭いながら残ったわずかな水を飲み干す。
「一か月したらストラップが来るよ! お揃いだね」
Tシャツと違って、ストラップなら受け入れやすい。蓮もちょっと楽しみだ。
近くのレストランに入る。2人で舌鼓を打つ。食材の話をするとジェイが怒るから口には出さない。
「この後、どうしようか」
本当は鍾乳洞などにも連れて行きたい。だが去年のことを思い出す。大きな岩が落ちてくると混乱して気を失ったジェイの姿だ。
結局レンタカーを借りて湖の周りをドライブすることになった。そしてジェイの目に飛び込んできたもの……
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