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「ねえ、見て。寝顔があなたそっくり」
「そうなの? 自分の寝顔なんか分かんないよ」
「睫毛が長いのはあたし似かな」
自慢げに妻が言うと対抗心からか夫も口を出す。
「くるんとカールしてるのは俺似だろ」
「え? あなたの睫毛、こんなだっけ?」
「ほら、よく見て」
目を閉じて顔を寄せてくる夫の睫毛をじっと見つめる妻。
「うーん……よく分かんないなあ。あ、あとこの子けっこう指が長いの。手タレになれるかも」
「なに、手タレって」
「知らないの? ほら、CMとかで手だけ出てるタレントさん」
「そんなこと言ったら普通のタレントになれるだろ。こんなに可愛いのに」
「そうか。それもそうね。でもなあ……芸能人はちょっと……」
妻はかすかに寝息をたてる、そのほっぺたをそっとつつく。
「おい、起きるぞ。やっとこさ寝てくれたのに」
「だって気持ちいいんだもん〜」
「まあ確かに」
夫もつられて反対側のほっぺをつつく。つつかれた赤ん坊は何事もないようにすやすやと眠っている。
「いっぱい寝て、大きくなってね」
「早く公園とか行って遊びたいなあ」
「まだまだ。今日退院したばっかよ」
くすくすと笑って妻が電気のスイッチを押す。部屋が暗闇に染まり、ぼんやりとした月明かりだけが空間を支配する。
「――おやすみ。いい夢を」
Fin.
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