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氷華
「なぁ、面白い話しがあるんだか……聞いてくれるかい?」
たまたま、道中にあった居酒屋で酒を飲んでいる時、酔っ払いが酒瓶を片手にしながら俺の座るカウンターの隣に座ってきた。
最初は、酔っ払いの戯れ言だと思い面白半分で聞いてあげた。
「あのな。この土地にまつわる話しなんだけどよ。今の季節、雪が解けた山の中に入ると、雪解けと共に現れる。“氷華”が出るんだとよ。“氷華”つーのは、名前の通り氷で出来た花だ」
「ただの氷じゃないのか?」
俺はビールを一口飲む。
「それが違うんだよ。なんでも、雪が全て解けるまで咲いている花だって話しだ」
誰にも聞かれないように小声で言ってくる。俺は「へぇ〜」と、適当に相槌を打つ。
「んっだよ。兄ちゃん信じてないなぁ?」
「そんな話し、誰が信じるんだ? そもそもなんでそんな話しを?」
酔っ払いは酒瓶を口につけ、煽り飲みをした。
「んぐっ、はぁ〜……うまい! なぜ、話したかって?」
酒をかなり飲んでいたのか、顔が赤くなっている。
「そりぁ、“氷華”は金になるって話しよ」
「……金?」
「あぁ、金だ。なんでも“氷華”を探している連中もいるみたいだ。だけど、“氷華”がある場所は山の中。猛獣が住むような場所にしか咲いていないって話しよ……」
うつら、うつら、とし始める酔っ払い。
「もしその話しが本当なら、なんで俺に?」
酔っ払いはカウンターテーブルに片頬をついた。かなり泥酔している様子だ。
「兄ちゃん。戦場上がりだろ?」
俺は、寝そうになっている酔っ払いを見た。
「なんでそう思う?」
「なんでって、見りゃあ分かる。目つきが普通の人と違うから……。それに金に困ってるっぽく見えたからだ……」
たしかにこの酔っ払いの言う通りだ。俺は、先日まで【桜河戦争】に兵士として出陣していた。
そして、戦争は俺たちの隊が勝ち、戦争は幕を閉じた。
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