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そしてもう一人は、白鳥の妹の“夏菜”だ。白鳥が心配でついて来たという。歳は、まだ十五歳とのことだ。
たぶん、白鳥よりも夏菜ちゃんのほうが漢気があるような……。
「ぐわぁああああ」
ちなみに今、俺たちはドデカい熊と鬼ごっこをしています!
「ヒィ、ヒィ!」
「白鳥! お前があの熊どうにかしろ!」
「どっ、どうにかって、どうにかってどうしろと?!」
半べそをかきながら白鳥は叫ぶ。
「どうにかってどうにかしろ! このままじゃ、俺たち死ぬぞ!」
「やだぁああああ! 死にたくねぇよ! オレには叶えたい野望があるんだよ!」
俺たちは、まだ葉の生えていない枝をどかしながら、走り続けた。すると、河下へと出た。
俺は『しめた!』と、勝ち誇った笑みが出る。
「何か思いついたの?」
夏菜ちゃんが冷静に聞いてきた。
「あぁ! 夏菜ちゃんたちは、向こう岸に渡っててくれ、俺はーー」
俺は肩に担いでいた旧式の小銃を持ち、いつでも打てる状態にリロードをする。
戦争から帰ったと同時に退役し、退役祝いに使っていた小銃を貰った。
まさか、ここで使うことになるとは皮肉なものだ。
「俺が迎え撃つ!」
俺は小銃を構えて、照準を向かって来る熊に合わせる。
「九条!」
「九条さん!」
二人の俺を呼ぶ声が背後から聞こえる。
ーー大丈夫だよ。二人とも。俺が君たちを守るから!
「ケモノ風情が俺に勝てると思うなよ!」
「ガォオオオオオ!」
「死ね」
青く広がる空へ銃声が響き渡った。森に住んでいた鳥たちが羽ばたいていった。
目の前の熊は、両手を大きく広げたまま固まっている。俺は動く前にもう一発、弾を心臓部に打ち込んだ。
けたたましい銃声と火薬が、耳と鼻を刺激する。
熊は背後から倒れた。ドンッと、重たい音が地面を響かせた。熊は、動かなかった。
「九条ー!」
「九条さん!」
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