氷華

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二人の兄妹が俺に抱きついて来た。よろめきそうになるのを必死で堪える。 「おいおい、向こう岸に行かなかったのか?」 「だって、行けるわけないだろ? 置いていくわけない!」 「うわ、汚い……」 鼻水と涙でベトベトの白鳥を見て、素で声に出してしまった。夏菜ちゃんも白鳥の顔を見て、引いた目をしている。 「兄さん。汚い」 「なんで?!」 俺と夏菜ちゃんは顔を見合って、笑った。白鳥は腑に落ちない様子でいたが、俺と夏菜ちゃんの笑いは止まらない。 この時、生きてて良かったと心底思った。 こんなに笑うなんて、いつぶりだろうか? 「九条さん。兄さん置いて、先に進みましょう」 「そうだな」 「ちょっ、オレを置いて行かないでよ!」 * * * 山の中を彷徨って、さらに数日が経つ。 山にも少しずつ春らしい風が吹くようになっていた。“氷華”は、いまだ見つからない。 「雪も溶けてきている。早く見つけないと“氷華”が無くなるな」 山に残る雪もわずかになってきている。白鳥曰く、今年は山の雪解けは早いとのことだ。 「九条。あと、探してないところってどこだ?」 白鳥に言われ、考えを巡らせていると、「山のてっぺんに行ってないわ」夏菜ちゃんがそう言ってきた。 俺と白鳥は、「それだ!」と夏菜ちゃんを指さした。夏菜ちゃんは少し照れ臭そうに頬を赤らめていた。 俺たち三人は、山の頂上へと歩き出した。 途中、休憩を挟みながら頂上へと向かう。やはり、頂上に近づくにつれて、下との気温差に違いが出始める。そして、雪もそれなりに残っていた。 「期待できそうだ」 ザク、ザク、雪道を歩いて行く。 「そういえば、兄さん」 「なんだ?」 「兄さんさ、前に『叶えたい野望がある』って、言ってたよね? それって何?」 「あ、それ俺も気になっていた。野望ってなんだ?」 白鳥は、よくぞ聞いてくれましたとばかりに、ニマニマとニヤついている。夏菜ちゃんは、白鳥に「早くしろ」と冷たく言い放つ。
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