氷華

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夏菜ちゃんの目が若干、虚んでいた。 「白鳥! ちょっと待て!」 「何?」 「夏菜ちゃんの様子がおかしい!」 「夏菜っ!」 俺は、夏菜ちゃんへ呼びかける。 「夏菜ちゃん、しっかりして! 俺の声聞こえるか?」 「……く、じょう……さん」 「夏菜ちゃん。一旦、麓へ帰ろう。このままだと低体温症で……」 夏菜ちゃんは、首を横に振った。それは拒否する反応だった。 「夏菜、大丈夫か?」 白鳥もこっちに来て、夏菜ちゃんへ呼びかける。 「夏菜、一旦山を降りよう」 夏菜ちゃんは、白鳥にも首を振った。 「なんで? このままだとお前ーー」 「……ふたりだけで、登って」 夏菜ちゃんは、俺たちにそう告げる。 白鳥は「やだ!」と、子供のように拒否した。 「お前を置いて行けるわけないだろ?」 「にい……さん……」 白鳥は夏菜ちゃんを抱っこした。 「九条、夏菜と一緒に麓に戻るわ。お前は、“氷華”探しに専念しろ」 「いや、俺も一緒にーー」 「だめだ。お前だけでも、見つけてくれ。それを見つければ、大金がもらえるんだからな。だから、探しに行け。そのためにここまで来たんだから」 俺は、白鳥と夏菜ちゃんを見た。夏菜ちゃんも声には出していないが、目で“行け”と言っていた。俺は二人の気持ちに答えた。 「わかった。そうだ、白鳥。これ持っていけ」 俺は白鳥に小銃(ライフル)を渡した。白鳥は目を見開いた。 「なんで?」 「冬眠から覚めた熊がうろつく季節だ。短刀だけじゃ心許ないだろ? だから、貸してやる」 「九条は?」 俺は、予備の拳銃を白鳥に見せた。 「さすが、元兵隊さん。武器は持ってるねぇ」 「うるせっ。ほら、早く夏菜ちゃんを」 夏菜ちゃんの顔色が少しずつ悪くなってきている。白鳥は、夏菜ちゃんを抱っこして山を降りていった。 「九条! 無事に帰って来いよ!」 白鳥は、雪道を降りながらそう叫んだ。 俺は、山頂へと登って行く。
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