摩周湖は映す

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「このままの状態では、もってあと余命半年です。」  肺癌、ステージ3C、左肺に原発性の巨大な腫瘍があり、そこから縦隔リンパ節に多発性転移。 症状が出た時にはもう既に、取り返しのつかない所まで広がってしまっている事例が多いのがこの病気の特徴だ。  手術も放射線治療も不可能で、できる治療は科学療法のみ。 それもここまで進行度の高い場合では良くて現状維持、治療を重ねてく内に癌が耐性を付けてしまえばそれまでというのが医者の見解だ。  つまり良くて余命を数ヶ月延ばす程度が限界で助かる見込みはほぼ0なのが現状だ。 「今の内に会いたい人、行きたい場所があれば済ませておいた方が良いでしょう。」  簡単に言ってくれる。 だが所詮そんな物なのだろう。 他人の生涯など。  どんなに壮絶な人生を歩んできた人でも死ぬ時は呆気なく死ぬ。 俺みたいな平凡な人間なら尚更だ。 そういう人間が数え切れない程いる中で、全員に肩入れしてたら精神がもたないだろう。  気が付けば俺は病院の正面玄関で立ち尽くしていた。 俺の人生は30年そこそこで終わる。 自分の事なのにまるで現実味が感じられない。 (俺、本当に死ぬのか?後半年で? 何言ってんだよあのヤブ医者、そんな訳ねーだろ。そんな訳…)  急に足元に力が入らなくなった。 立っているのがやっとで視界が僅かに揺れている。 (なんで俺なんだよ。 死にたくねぇ、死にたくねぇよ…。)  この世の全ての事象は起こるべくして起きている。 一見偶然に見えるような事でも、それは元を辿れば小さな必然がいくつも重なった結果なのだ。  だから俺が肺癌になったのも運が悪いからではない。 俺自身の行動が積み重なった結果なのだ。 俺はこの現実を受け入れなければならない。
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