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「結花ちゃん、凌くん!」
言われたホテルにドキドキしながら足を踏み入れて、結花と二人でキョロキョロしていたら、レストランの入り口で若ちゃんが手を振って呼んでくれる。
隣には、当然のように兄貴。
俺も、あんな風に当たり前みたいに結花の隣に存在できているんだろうか。まだ、長瀬の家族と一緒にいるときの結花の方が自然体な気がしないこともない。
焦っても仕方ないんだけど、早く追いつきたいと思う。
兄貴にも、長瀬家の面々にも。
結花が、とことこ若ちゃんとしゃべりに行っちゃった。
…結花って、年上に懐くよな。
楓さんともすぐに打ち解けたし、三上さんもそうだ。
結花が、多分いい方にどんどん変わっていくのは、望ましいことなんだろうけど。ずっと俺だけの隣にいてほしいと思う、わがままな俺もいるわけで。
…そういうところが、兄貴たちにかなわない要因なんだろうな。
多分、今の俺には…どんな事情があったって、何年も結花と離れて別の土地で暮らすとか、絶対無理だ。たとえその期間が明けたら結婚すると約束していたとしても、寂しくて我慢できない。
健太さんなんて、今の俺の年齢で一年間祥子さんと別れたんだもんな。
気持ちもしんどかったけど、身体もやばかったみたいなことをぶっちゃけてたことがあったけど、今の俺にはものすごくよくわかる。
っていうか、俺には絶対無理。
兄貴と並んで、入ってきたばかりのホテルの入り口をもう一度出て、ついて歩く。5分もせずにおしゃれなレストランに到着した。
兄貴が店員さんに『予約した澤田です』って言いながら、中に案内してくれる。
「試合前に大丈夫だった?」
俺たちが無理して抜け出したんじゃないかと心配してくれてるんだろう。
でも、俺から日程を連絡した時に、試合の二日前に現地に入ると言ってあったから、明日じゃなくて今夜呼んでくれたんだと思う。
「ううん。
兄貴たちこそ、忙しいんじゃないの?」
案内してくれたのは、レストランの一番奥にある綺麗な個室。
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