39人が本棚に入れています
本棚に追加
「招待状だけなら、郵送すれば済む話ではあるんだけどな。
俺たちは…高校時代から周囲に心配をかけてたみたいだし、いろんなところで助けてもらってたから。
ついでがあるなら会って行くかと思って」
なんて、兄貴が言ってる。
多分、友達に会うのが『ついで』なんだったら、俺の試合を見たいと思ってくれたのが最初の動機だったんだろう。
昔から、両親はともかく兄貴は俺の試合を見に来たことは…ほとんどなかった。あの怪我の後…最後のインハイの時期にはもう就職してたし、それからずっと離れて暮らしてるから、復帰した俺の姿を、兄貴は一度も見たことがないんだ。
興味がないわけじゃない。兄貴が俺のことを親のように深く思って見守ってくれていることは、俺が一番よくわかってる。
でも、それぞれの世界を大事にするような家族だったから、俺も兄貴の演奏会は何度かしか行ったことがない。そもそも、お互い試合や本番は土日が多いから、大体は自分の予定が入っているという事情もあった。
でも、初対面の日に結花が持っているのが楽器だって、俺がすぐに気づいたのは、兄貴の影響だ。
普通はあんなの…ただの箱にしか見えないし。
同じように、兄貴だってサッカーを見るたびに俺を思い出してくれてたんだろう。俺が怪我したその日の晩に、お父さんの交代要員として駆けつけてくれたのだって、冷静に考えればほぼタイムロスなしだ。
お父さんから連絡がいって、どこにいたかは知らないけれど、すぐに駆けつけてくれたんだ。
あと何年かで、俺がこんな風に本気でサッカーをやる時間は終わる。
そう思うと、兄貴と若ちゃんが、時間をひねり出して俺の試合を見に来てくれたってことが、ものすごくうれしくて…胸が熱くなった。
高校時代には手が届かないままだったけど、俺の今いる世界で日本一を取る瞬間を、兄貴と若ちゃんに見せてやりたいと思う。
最初のコメントを投稿しよう!