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翌日
翌朝。
「…もつくん。保くん、朝よ。起きて」
俺はいつから眠ったのか覚えてねーが、冴子に揺すられて、閉じていた目を開けた。
「冴子…さん」
見ると、冴子は再びビジネススーツに着替えており、俺は頭だけ掛け布団から出す。
「どう?一晩経って芸能界に入る気にはなった?」
「まだまだ、その気にはなれねーな」
「そう…。じゃあ、その気にさせてみせるまで、コレ預けておくわ」
冴子は一瞬、伏し目がちになったが、直ぐに掛け布団を剥いで、俺の手に鍵の様な物を握らせる。
「これは?」
「事務所の合鍵。その気になったら、いつでも連絡ちょうだい。初めだけ事務所まで案内するわ」
寝室にはエアコンがないのか、俺は、冷気をモロに喰らった。
「寒っ!」
鍵を握り締めたまま思わず身体を丸くする俺に、冴子は言う。
「早く着替えてらっしゃい。遅刻しない様に車で送ってあげるから」
「わーったよ!」
返事もそこそこに俺は身体を起こすと寝室を出た。
リビングに続くドアを開けると、ソファーの上にはカバンと学ラン、そしてコートが畳まれている。
その横のテーブルの上には弁当を入れてた筈の巾着袋が置かれていた。
「今、シチュー温め直すわね。昨夜、空のお弁当箱が入った巾着袋を見つけたから、箱だけ洗って、お昼、適当に作っておいたけど、良いわよね?」
鍵をカバンに入れ、着替えていると冴子はそう言って、IHヒーターの上に置きっぱなしだった鍋を温め直す。
「それは構わねーが、この下着は何だ?」
「夫の予備だった分よ。昨夜、気付いた時はもう眠ってるみたいだったから…。お風呂上がりに言ってくれれば洗濯したのに」
まさか、あわよくば冴子とヤろうとしてたとは言えねー。
「飽くまでも予備だから返さなくても良いし」
「解った。ありがたく頂戴するぜ」
「遅刻するわよ。早く着替えなさい」
俺は冴子に急かされるままに制服に着替えて朝飯を食った。
俺の学生証から中学の場所をナビに入力した冴子は車を発進させる。
運転に集中してる冴子を尻目に俺はカバンから取り出していた携帯を開いた。
暗証番号を入力しないと開けないから冴子が開いた事はないだろう。
見ると、田中から何回か連絡が入っている。
俺は冴子の手前、通話ではなく、メールで『彼女が出来て昨夜、泊まった。親父には別に隠さなくても良いぜ』
とだけ打って、送信した。
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