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不穏
中学の校門前に近付くにつれ、車の中からでも、昨日と同じく、凛が立っているのが見えてくる。
凛の目の前で、冴子は車を止めた。
凛も流石に俺達に気付いた様だ。
驚いた様に俺達を見てる凛に、俺は車の窓を開ける。
「よお、凛。こんな寒い中、俺の事を待ってたのか?」
「そうだけど…たもっちゃん。このオバサン、誰?」
茫然と冴子を見て、俺に聞く凛に、俺は昨日スカウトされた話をしようとした。
しかし、オバサン呼ばわりされた冴子は面白くなかった様だ。
「○○芸能事務所の…」
「保の彼女の高橋冴子です。初めまして、可愛いお嬢さん。リンちゃんって言うのね」
「あ、おい…」「えっ…」
俺は思わず運転席側に視線をやる。
冴子は勝ち誇った表情をしていたが…次の凛の言葉に顔が強張った。
「何言ってるの…?だって、貴女、オバサンじゃない…。それなのに、たもっちゃんの恋人なんて…おかしいわ…」
「凛、言い過ぎだ。冴子さん、あんたも落ち着け」
「あら、良いじゃない。私のお腹には今、赤ちゃんが宿って居るの。勿論、保との間の子よ。何なら母子手帳見せても良いわ」
「…はあ?」
俺はまだ中学生だ。
結婚も出来ないのに、母子手帳なんざ手に入る訳がねー。
だが、冷静になれなかったのか、凛は今にも泣きそうに顔を歪ませると、走って学校の中へ入っていく。
「待て!凛!」
俺は急いでシートベルトを外し、車から降りると後部座席からカバンを引ったくる様にして、凛の後を追った。
だが、下駄箱まで来たが、凛の姿を見失った。
「凛の教室、どこだよ…」
凛は俺のクラスを知っているが、俺は1年生だって事しか知らない。
俺は上履きに履き替えると1年の教室が立ち並んでいる方に歩き出す。
手前から1クラスごとに教室を覗いてみるが、凛の姿はなかなか見つからない。
と、廊下の死角から、男子達の話し声が聞こえてきた。
「酒井って可愛いよなぁ」
「ああ、俺もタイプだ。てえか好きかも!」
酒井という単語に俺は思わず立ち止まる。
だが、確かに凛は可愛いが、酒井って苗字だけじゃあ、凛のことだとは限らない。
それに男子達で集まって恋バナをしてるだけの様だ。
そう思った俺が再び歩き出そうとした時。
「今度、思い切って凛ちゃんって呼んでみよっかな」
「でも昨日今日と校門の前に突っ立ってるよな。彼氏でも出来たのかな?」
どうやら、本当に凛の話をしてる様だ。
しかも。
「何なら皆で襲って、彼氏から奪っちゃう?!」
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