絶縁

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絶縁

すると、1番奥のA組の教室の前まで差し掛かった時に、友達と教室から出て来た凛をやっと見つけた。 「凛!」 俺の声に、凛がこっちに気付く。 避けられるかとも思ったが…。 「ごめん、先に行ってて」 凛は友人達にそう言うと、おずおずと俺の方へやって来た。 「凛、俺、あの女とは縁切るからよ」 「えっ!でも、そうしたらお腹の赤ちゃんはどうなるの?」 「赤ん坊が出来る訳ねーだろ。俺はまだ中学生だぜ。母子手帳もあの女は持ってねーよ」 凛は俺の顔を見上げる。 俺はニヤリと笑ってみせた。 「安心しろ。凛を悲しませることは、これからはしねーよ。悪かったな」 「ううん。私も真に受けちゃって…。でも、冴子さん、傷付かないかな?」 「あの女は大人だ。直ぐに切り替えるだろ」 俺の言葉に凛は少し安心した様な表情で頷く。 「ありがと、たもっちゃん。…私、友達待たせてるから、もう行くね」 「ああ、又な」 友人達の後を追って、パタパタと走り去っていく凛は。 「酒井さん、廊下は走らない!」 「あ、ごめんなさい!」 女性教師に注意されて謝っていた。 俺は凛と別れたその足で1人、屋上へとやって来た。 他には誰もいない。 寒くて居心地が良いとは言えないが、教室内で1人で弁当食うよりマシだった。 俺は、冴子が作ってくれた弁当を、巾着袋から取り出すと、蓋を開けてみる。 色とりどりの具沢山な弁当は酒井にも引けを取らない。 ひと口食ってみた。 味も美味い。 俺は冴子にこれだけのことをさせておいて、凛に縁切ると言った事に少し負い目を感じる。 でも、校門前で見た凛のあの表情…。 俺はこれ以上、凛を傷付けることはしたくなかった。 冴子は大人だ。 何より冴子の心は死んだ旦那のモンだ。 その反面、凛はモザイクの様な…守ってやらねーといけねー感じがする。 俺が歳下に興味を持たなかったのは、そこだ。 お守りをするのが面倒くさい。 だが、不思議と俺の中では冴子より凛の方が大きな存在になっていた。 …何故だ? 俺は弁当を食いながら、自問自答してみるが、答えはわからなかった。 弁当を食い終わって巾着袋にしまった俺は、懐にある携帯と、昨日冴子が寄越した名刺を取り出す。 名刺に印刷されている連絡先に電話した。 数回のコール音の後、冴子が電話に出る。 『もしもし』 「もしもし、俺だ」 『その声は保くん?芸能界に入る気になった?』 「いや、あんたと縁を切る事にした」 受話器の向こう側で、冴子は戸惑ったのか、一瞬、沈黙が流れた。
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