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美少女とヤクザ
『今朝の女の子のせいね?』
「解ってるなら他をあたってくれ」
『…もう少し骨があるかと思ったら、やっぱり中学生は中学生。まだまだ子供ね。…解ったわ。今日、校門まで行くから合鍵は返してちょうだい』
そう言うと冴子は気に触ったのか、電話をガチャ切りした。
合鍵ならカバンの中に入れたままだ。
冴子が大人の対応をしたのは俺には何となく解る。
俺は、せっかく携帯を此処まで持って来たんだからと、ついでだから行き付けの美容院に予約の電話を入れる事にした。
前回行ってからご無沙汰だから、髪も大分伸びている。
携帯に登録してある番号をタップすると、数回のコール音の後、まだ若い、馴染みのある男の声が聞こえてきた。
『はい、オリーヴ麻生です』
「麻生さん、久しぶり」
『その声は千夜くん?久しぶりだね。もしかしてカットの予約かい?』
「ああ。それと…」
『それと?』
金色に染めてくれと言おうとしたところで、凛の怒った顔が思い浮かぶ。
「いや、何でもない。カットで」
『かしこまりました。じゃあ今日の18時半が空いているけど、どうする?』
「ああ。それで構わない」
『じゃあ予約入れといたよ。待っているからね』
「ああ。又、後で」
俺は確かに予約を入れると電話を切った。
そして、身体が冷えてきたので、携帯をしまって巾着袋を持つと教室に戻る事にした。
放課後。
帰る支度をしてると「たもっちゃん、一緒に帰ろ」と、廊下から声が聞こえてきた。
見ると凛が、教室前のドアのところで、笑顔で手を振っている。
「かわいー!」
「でも、たもっちゃんって…」
「えっ!あの子、千夜の事、怖くないのか?」
クラスメートがざわつき始め、俺と凛に注目が集まった。
驚かれるのも無理は無い。
凛は何処から見てもカタギの可愛い女だからだ。
俺はクラスメート達の視線を一身に受けながら、とっとと教室を出る。
「あ、たもっちゃん。待ってー!」
足早に廊下を歩く俺の後ろから凛がパタパタと追いかけてきた。
俺は思わず立ち止まると、凛が追いつくのを待つ。
「凛。廊下を走ってると教師がるっせーぞ」
「だって、たもっちゃん、歩くの早いんだもん」
俺は仕方なく凛に歩調を合わせてやりながら、カバンから冴子の事務所の合鍵を取り出した。
「たもっちゃん、それは?」
「今朝のオバン…冴子さんから預かった合鍵だ」
俺が片手で鍵を握り締めると凛は伏し目がちに問う。
「たもっちゃん…冴子さんとは縁を切るんじゃなかったの…?」
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