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別れ
「うん。私ね、今度、引っ越して転校する事になったの。バレンタインデーの頃にはもう逢えないから…今日受け取ってもらおうと思って…」
転校…つまりは凛に会えるのは今日が最後なのか。
「そうか」
俺はそれだけ言うと、受け取った包みをカバンに入れる。
「たもっちゃん、元気でね。短い間だったけど、会えて嬉しかったよ」
「ああ。俺もだ」
そう言うと、凛はカバンを手に持って、アパートへの分かれ道で、俯き加減で走り去っていった。
「あ、おい…」
俺が呼び止めようとした時には、凛はもう大分先まで走っている。
ひょっとして泣いてるのか。
俺は凛の後ろ姿が見えなくなるまで、その場に立って見守っていた。
18時半、丁度に俺は美容院オリーヴへ入る。
ドアのベルが鳴り、麻生さんが出迎えてくれた。
「いらっしゃい、千夜くん。荷物、預かるよ。カットの前にシャンプーもするよね?」
俺は麻生さんにカバンを渡しながら、言った。
「麻生さん、それに加えてなんだが…髪を金に染めてくれ」
カバンをカウンター内に置いた麻生さんは俺の言葉に驚いたようだ。
「良いのかい?千夜くん。キミはまだ中学生だ。先生たちの反応や…何より高校受験に差し障るだろう?」
「構わねーよ」
俺はカウンターの直ぐ傍に在る、ソファーに腰掛ける。
凛が居なくなる…その事実は、俺にも少なからずダメージを与えていた。
たった3、4日しか一緒に居なかったのに、凛の存在で俺も随分、救われていた事が今なら解る。
麻生さんは、そんな俺に視線を合わせて言った。
「じゃあ、こうしよう。髪全体を金髪にするのは中学卒業祝いにして、今日はカットとシャンプーに、髪のところどころに金のメッシュを入れるだけ。それでも良いかい?」
「…約束だぞ、麻生さん」
「大丈夫。キミは大切なお客様だ。約束を破る様な事はしないから、卒業したら又言ってくれ。こっちも忘れないようにはしておくけどね」
麻生さんはニッコリ笑って俺の頭を撫でると「少し待っていてくれ」と言って、先に対応していた客の方に行く。
そうか…もうじき3年生か。
受験って言っても、俺は親父の跡を継ぐ事になるかもしれねーが。
そこら辺のことはまだ解らねーな。
俺はカットしている麻生さんの姿を見ながらボンヤリとそう思っていた。
翌日の朝、いつも校門前で待っていた凛の姿は無かった。
やっぱ、昨日の帰り道のことは夢じゃなかったんだな。
予鈴と共に教室内に入る。
先に教室内に居た担任の教師は驚いた様だ。
「千夜!その髪型は何だ?!」
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