逆戻り

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逆戻り

俺は構わず自分の席に座ると、ドッカと机の上に片足を乗せて言った。 「るっせ。全部染めるより良いだろ」 …本当は全部染めようとしたんだが。 「良くない。放課後、職員室まで来い」 「掃除当番だから無理だな」 「いつもサボっている奴が何を言っている!」 と、その時、本鈴が鳴った。 教師はまだ何か言いたそうだったが、渋々朝のHRを始める。 俺は、この時まだ気付かなかった。 教師は別にして、クラスメートの視線が暖かくなっているのを。 気付いたのは放課後になってから。 本当は帰りのHRが終わり次第、帰っちまえと思っていたが、担任の教師が俺を睨みつけたまま、教室のドアの所で見張ってる。 俺は仕方なく机と椅子を他の掃除当番の奴等と運んでいた。 面倒なので、力にモノを言わせて、2、3人分の机を片手で持って、もう片方の手で椅子を2、3脚ずつ運ぶ。 と、不意に机を持ってた方が軽くなった。 不審に思って見ると、俺が担いでいた机の内の2つを同じ掃除当番の奴等が、それぞれ手に取っている。 「千夜、今までゴメンな。避けてたりして」 「私達、思ったの。昨日、あんな可愛い子に慕われてる千夜くんって、思っていたより怖くないのかなって」 「その髪、イメチェンみたいで格好良いぜ」 「そこ!話をするな!」 教師のゲキが飛び、机を1つずつ持ったまま掃除当番の奴等が運んでいく。 お陰で大分軽くなった。 クラスメートに話し掛けられたのは、これが何年かぶりだった。 あの時の凛のお陰か、俺はクラスメート達から再びちょくちょく声を掛けられるようになった。 最も、あの後、職員室で散々説教されたのに髪を元に戻さなかったから、教師達からは良い顔をされなくなったが。 だが、ばーちゃんや妹分の凛を失った俺は、クラスメート達と放課後に別れた後、今度こそ女遊びをして、歳上のOLと1つになり、大人の階段を登っていた。 それから数日後。 学校が休みなのを良いことに、俺は1人で凛のアパートに行ってみた。 夢であって欲しかった。 アパートに行けば、そこにはまだ凛が居る様な気がしていた。 だが、アパートに着いた俺が見たのは、『酒井』ではなく、『佐藤』という表札に変わっていた現実だった。 凛…お袋さんと元気で居ろよ。 俺は心の中だけで、そう思うと帰り道、公園へ寄る。 いつしか凛とベンチに座った、あの小さな公園だ。 公園ではまだ小さなガキどもがキャーキャー言いながら楽しそうに遊具で遊んでいる。 俺は空いてるベンチを見つけると座って、その様子を何気なく眺めていた。
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