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保と凛
「うん!酒井咲也っていうの。でもお父さんは、私とお母さんにカタギとして生きていって欲しいって敢えて別々に暮らしてるんだ」
酒井って、あの料理人の?
「あんた…酒井の娘なのか」
「うん!酒井凛って言うの。中学1年。千夜お兄ちゃんは?」
「千夜保。2年だ」
「じゃあ、たもっちゃんだね!」
「たもっちゃん、ねえ…」
俺はガキ…凛の呼び名に半分呆れながら、さっきろくに吸えなかったタバコを取り出す。
「たもっちゃん!ダメでしょ!タバコは成人してからじゃないと吸っちゃいけないんだよ!」
「良いだろ。俺の身体なんだし。こうでもしなきゃやってらんねーよ」
「良くないよ!法律でも禁止されているから、警察に補導されるよ!」
酒井家は父親より娘の方が口やかましいのか?
隣でギャーギャー怒る凛に、俺はタバコをしまいながら立ち上がった。
仕方ねー。
タバコは凛の居ない所で吸うか。
「凛、寒いからそろそろ帰ろうぜ。アパートまで送ってやるから」
「うん!たもっちゃん、ありがと」
凛もベンチから立ち上がる。
そして、2人で公園を後にした。
「凛のお袋さんは元気か?」
「うん!毎日パートに出掛けてる。お父さんが仕送りしてくれてるけど、頼りっぱなしも気が引けるからって」
凛のアパートは古びた昔ながらのアパートって感じだった。
凛とお袋さんの部屋は1階らしい。
ドアの前までたどり着くと、凛は懐から鍵を取り出した。
「じゃあね、たもっちゃん。今日は色々とありがと。後、タバコとライターは組員さんに渡すか捨てる事!良いわね!」
凛はドアを開けて俺に釘を刺すと、中に入って行った。
凛がドアを閉めたのを見届けると俺は屋敷への帰路に着いた。
翌朝。
親父が屋敷を留守にしているのを良いことに台所で弁当を作る。
酒井に凛のことを聞いてみようかと思って…やめた。
そして、あー、学校なんざ、かったりーと思いながら、俺はカバンを肩に担いで登校した。
遅刻スレスレの時間の為か、通学路を歩いている中学生の数は少ない。
知ってる奴は1人も居なかった。
と、校門までたどり着いたところで、セーラー服の上にペチコートを着た凛が、カバンを両手で持って立っているのが見えた。
「凛、待ち合わせか?」
「ううん、たもっちゃんを待っていたの。でも、なかなか来ないんだもん。遅刻しちゃうよ」
「んなこと、どうでも良い。だが、何故俺を待ってた?」
「それは…」
「それは?」
もうじき予鈴が鳴る頃なのに、凛は言葉を詰まらせたまま、カバンを握る両手を震わせている。
「たもっちゃん!好きです!私と付き合って下さい!」
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