オオカミ

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オオカミ

冴子も運転席に座ったところで、俺は半ば強引に両手で奴の顔をこっちへ向け、フレンチキスをする。 「んー!?」 冴子は俺の両手を離そうとするが、俺はビクともしない。 片目を開けると、冴子の両目が躊躇う様に揺れている。 所詮、女の力…俺に敵う訳が無い。 「俺をスカウトしたかったら、俺をその気にさせてみろ。ラブホでも、何処へでも行くぜ」 冴子は始め現実を把握出来なかったみたいに茫然と俺を見つめていた。 だが、段々とその目に怒りと驚きが無い混ぜになった様な光が宿る。 「貴方、こんな事して、ただで済むと思っているの?出てって!早く車から降りなさい!」 冴子は俺を両腕で突っぱねるが俺は少しも動かない。 俺は逆に冴子の両腕を片方ずつ掴むと、奴を運転席側のドアに押し付けた。 冴子は、とうとう暴れようとし始めた様だが、俺が組したままの為か、身動きが取れない様だった。 「さあ、どうする?このまま此処でヤるか、ラブホへ行くか。スカウトしたいんだろ」 「そ、そんな事…!嫌!」 選択を迫る俺に、冴子は蹴りを入れようとする。 「おっと」 冴子の片腕だけ離して、俺は軽く身をかわした。 と、観念したのか、手から伝わってきてた冴子の抵抗する力がフッと緩んだ。 「…解ったわ。手を離して」 俺は冴子の両目に光るものを見た気がして、手を離し、奴を解放する。 冴子はドアに押し付けられてた身体を、運転席にきちんと座り直すとシートベルトを締めた。 その様子を見て、俺も助手席でシートベルトを締める。 車は繁華街に沿った車道を走り抜けて行った。 しばらく走って行った所で車はマンションらしき建物の前にある駐車場へたどり着いた。 「此処は?」 「私が1人で暮らしているマンションの駐車場よ」 冴子は事務的に応えるとシートベルトを外す。 てっきり事務所で話を聞くもんだと思っていた俺は内心、驚いた。 俺もシートベルトを外して、冴子と車から降りると、後部座席のドアを開けてカバンを手に取った。 1人で暮らしているとは好都合だ。 俺は、車に鍵をかけて歩き始めた冴子の後を付いて行った。 冴子のマンションはバカでかい建物で、エレベーターに乗ると、奴は最上階のボタンを押す。 誰もいないエレベーターが上って行く間、俺は冴子の肩を抱いて、ふと疑問に思った事を聞いてみた。 「他に誰もいない事務所を経営してる割には、でけーマンションに住んでるんだな」 「夫の遺産で住んでいるのよ」 何だ…未亡人という訳か。 冴子の夫だった男は随分若くして亡くなった様だな。 きっと部屋には夫との思い出がたくさんある事だろ。 これは、冴子も童貞の俺とはヤらねーかもな…。 合意の上じゃねーと意味がねー。 俺は、冴子の肩から、そっと腕を離した。 エレベーターが着くと、そのまま部屋に案内された。
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