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冴子の部屋
建物に合うだけの広さと奥行きのある、部屋が幾つもありそうな空間だ。
「お腹空かない?話は食べながらでも良いなら先に夕食作るけど」
キッチンに面したリビングまで来た時、冴子がエアコンのスイッチを入れながら、そう言う。
そう言やヤる事ばかり考えていたが、夕飯を摂らないといけねーし、話も一応聞いてみねーとな。
「何なら俺が作るぜ?」
「貴方、料理出来るの?」
冴子は流石に驚いた様だ。
俺はリビングのソファーに、カバンと着ていたコートに学ランを脱いで放ると、キッチンの冷蔵庫を開ける。
「あ、ちょっと…」
冴子が咎める様に声を出すが、俺は構わず中に入っているのを物色する。
「これだけ食材が揃ってれば、簡単なものなら作れるぜ。あんたは先に風呂済ませてこいよ」
「意外ね。…でも、そうね。此処は貴方にお任せして、先にお風呂に入ってくるわ」
冴子はそう言うと、浴室がある方へ向かった。
風呂上がりの女って良い香りがすんだよな。
今日は寒かったから、シチューでも作るか。
まだまだ1からは作れないが、戸棚に在るルウを使えば俺でも作れそうだ。
俺はシャツの袖を捲ると手を洗い出した。
シチューは煮込まなきゃいけねーから、どうしても時間がかかるが、女の長風呂と言って冴子もなかなか浴室から出て来ないから、丁度良かった。
盛り付けまで済ませたところで、髪をタオルで巻いて、白いバスローブに着替えた冴子が出て来た。
「色っぽい格好してるぜ」
「お陰様で。貴方の作ったシチューも美味しそうよ」
そう言う冴子は、湯上がりのせいか頬が紅潮している。
俺が椅子に座ると、冴子も俺の正面に座った。
「頂きます」
「ああ。沢山作り過ぎたから、どんどん食ってくれ」
俺がそう言うと、冴子は初めて笑顔を見せた。
笑うと美人度が上がった気がした。
「残っても明日の朝、温め直して食べれば良いじゃない」
「解らねーぞ。俺が全部食っちまうかもな」
「ふふ。貴方って結構面白いのね。それで話だけど…」
俺の冗談に、車の中での一件が無かったかの様な、和やかな雰囲気の中、芸能界の蘊蓄について聞かされた夕食のひと時が過ぎていった。
後片付けまで終わらせると冴子の計らいで、もう外は暗いからと、今度は俺が風呂に入らせてもらった。
上がると死んだ亭主のか、男もののパジャマが置いてあった。
リビングまで戻ると、冴子は感心した様に言った。
「あら、ピッタリじゃない。千夜保くん」
「…あんた、何故、俺の名前を知ってるんだ」
「悪いけどカバンとコートの中を見せてもらったわ。随分学生離れした子だこと。まさか中学生だとは思わなかったわ」
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