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千夜くんの過去
知らなかった。
小学生の頃、極道の意味も、ヤクザがカタギからどう恐れられてるかも。
「俺んち、ヤクザなんだぜー」
「やくざってなあに?」
「鉄砲持ってたり、めちゃくちゃ喧嘩強かったり、格好良いんだぜー」
「へー!千夜ん家、格好良いのかー」
「ああ!今度皆で遊びに来いよ!」
「うん!皆で遊びに行くぜ!」
だが、皆が俺の屋敷に遊びに来ることはなかった。
「千夜ー。ママに千夜んち、やくざで格好良いから遊びに行きたいって言ったら絶対ダメだって言うんだ。何でだろー?」
クラスメート達は皆、俺の家に行く事を反対されたことを不思議がっていた。
異変を感じ始めたのは高学年になってから。
「おい、千夜んちってさ…ヤバいよな」
「うん、怖くて近寄りたくないね」
皆、俺が近づいていくとスッと避けていく。
気が付くと俺は学校の中で孤独になっていた。
「保。保や」
屋敷の庭で1人で遊んでた俺をばーちゃんが呼ぶ。
「何だよ、ばーちゃん」
「今日はパパもおらんだろう。台所でケーキと料理を作ってやるから、こっちへおいで」
「やーりぃ!ばーちゃん、俺も手伝う」
「それは構わんが料理は包丁も使うから気を付けるんだよ」
俺にはお袋が居なかったから、ばーちゃんが俺にとってお袋みたいなもんだった。
俺はばーちゃんに付いて台所に行く。
「酒井。食材と器具の1部を借りるよ」
ばーちゃんが一言、料理人に断りを入れる。
料理人が頷くのを見たばーちゃんは先ず料理を作り始めた。
「良いかい、保。包丁と食材はこう構えて…」
俺の背中越しから、俺の持っている包丁と食材を正しく手取り足取り教えてくれたばーちゃん。
火を通す時の注意点も言いながら食材を煮込むと料理が出来あがった。
次にばーちゃんはケーキを作り始める。
俺は今度はばーちゃんの隣でケーキが出来上がっていくのを見ていた。
オーブンで生地を焼き、ホイップした生クリームを塗っていく。
フルーツも乗せてケーキが出来あがった。
「ばーちゃん、すげーな!俺も今度作ってみたい!」
だが、ばーちゃんは言った。
「ケーキ作りは料理以上に難しいからの。保がもっと大きくなったら教えてやるからの」
ばーちゃんのケーキを食べながら俺はその時を夢見ていた。
ばーちゃんは親父が留守の時は大抵ケーキを作ってくれた。
中学生になって俺は家の事を学校で話さなくなった。
「千夜んちってヤクザらしいぜ!」
「おー、こわ」
だが、同じ小学校だったクラスメートが言いふらす。
中学でも俺はクラスメートから敬遠されていた。
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