ファミリー・ハンティング

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 僕がソピアに出会ったのは、音楽大学の名門、コロス音楽院でのことだった。  声楽を学ぶため地球から留学していた僕が、ハープ奏者を(こころざ)すソピアに一目ぼれしたのだ。幸運なことに、ソピアも僕に好意を持ってくれた(あとで聞いたところによると、僕の歌声を気に入ったらしい)。  卒業後、僕はそのまま声楽家としてコロスに残り、ソピアにプロポーズした。  それぞれの両親に婚約を報告すると、僕はさっそくソピアの実家に招かれた。ソピアの家族は僕を大歓迎してくれたが、ソピアの兄弟や祖父母まで出てきたときには驚いた。 「ソピアは病弱だから、結婚するなら繊細な男性がいいといつも言っていたんだよ! 良かったねえ、こんな荒っぽい男じゃなくて!」  ソピアのお婆さんはそう言って、お父さんをバシバシ叩く。確かに、僕とほぼ同身長のソピアはコロス人の女性としては小柄な方だ。だが学生時代には100メートルを10秒5で走っていた彼女である。『病弱』の概念が結び付かず、僕は笑ってごまかした。 「トモヒロ君は結婚したら、コロスに定住するつもりなんだって?」 「はい。夏には、国立歌劇場の公演に出ることになっています」  稼ぐ力はあるんですよ。ということを僕なりにアピールしたつもりである。だが、アイオンさんは真面目な顔をして言った。 「コロスに住むなら、一度は魔の谷に行かないとな」 「まの……何ですか?」  僕が聞き返すと、ヘルメス君が身を乗り出してきた。 「コロスの男が一生に一度は行くところさ! あそこで巨獣を狩って一人前になるんだ!」  巨獣? 狩る? 僕が混乱していると、突然ヘルメス君が着ていたポロシャツを脱ぎだした。 「ほら! 俺がキマイラにやられたときの傷だよ!」  地球のオリンピアンも真っ青の鍛え上げられた脇腹に、白っぽい長さ二十センチほどの傷が三(すじ)も残っている。 「ヘルメス、お客さまの前ですよ」  たしなめるお母さんの横で、お爺さんがガハハと笑った。 「わしは肩をガブリとやられたあとが残っとるよ、ほれ」 「やだ、お爺ちゃんまで!」 「アイオンは従兄弟の狩りを手伝ったとき、足を食いちぎられかけたんだ!」 「あのときはヒドラが相手だったな、懐かしい」 「ああもう、これだからコロスの男連中は……」 「婆ちゃん古いよ。今時は女子だって、」 「トモヒロさん、お茶のお代わりいかが?」 「へっ? がぶり? ヒドラ? お茶?」 「よし、わかった」  そのひと声で、おしゃべりがぴたりと止む。ソピアのお父さんが重々しく言った。 「トモヒロ君、来週いいかな? 狩りに行こう。武器はこっちで用意するから、君は身ひとつで来てくれればよろしい」
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