ファミリー・ハンティング

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 恋人のお父さんと二人っきり。  世の若者ができれば避けたいシチュエーションで、これ以上のものはそう無いだろう。「便意をもよおしたのに個室が満員」とか? それは全年齢対象案件だから話が違うと言いたい。  とにかく今、僕はその「二人っきり」を上回る極限状況に直面していた。  まず僕の前には、僕の恋人であり婚約者でもあるソピアのがどっかり腰を下ろしている。そして、僕の右前には彼女の、さらに左前には彼女のが座っているのだ。三人ともコロス人らしく筋骨隆々、背丈は二メートルに届こうかという偉丈夫である。対する僕は、胴回りがちょっと太い以外は平均的な地球人体型。彼らと比べると、控えめにいってもメジャーリーガーの中に紛れ込んだボーイスカウトに見える。  そんな僕たち四人が何をしているかというと、ケーブルカーに乗っている。惑星コロスの秘境、その名も『魔の谷』と呼ばれる深い谷底へ下っているところなのだ。  積み込まれた大きなコンテナのせいで身動きもできず縮こまっていると、スピーカーからフニクリ・フニクラのメロディとともにアナウンスが流れ出した。 『ケーブルカーのご利用、誠にありがとうございました。あと数分で最深部に到着いたします。お忘れもののないよう、いま一度、装備品のご確認をお願いします……』 「いよいよだな。アドレナリン出てきた!」  ソピアの弟、ヘルメス君が明るい声を上げる。 「あんまりはしゃぎ過ぎるなよ。死ぬぞ」  兄のアイオンさんが穏やかに物騒なことを言った。 「トモヒロ君」 「はいっ!」  ひときわ低い声に名前を呼ばれ、僕は思わず背筋を伸ばす。正面のお父さんが渋い笑みを浮かべた。 「そう緊張しないで、気を楽にしてくれ。今日の主役は君なんだから」  ヒイィーー!  僕はひきつった笑顔を浮かべつつ、頭のなかで悲鳴を上げた。
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