愛を感じて

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 あっさりと嘘を見破られ、首をすくめる。松田さんには嘘や隠し事が通用しない。笑ってごまかすと、松田さんは目を細める。自分から正直に話せ、という目だ。  そして私も短い付き合いながら、松田さんには正直に話しておいたほうがいいということを学んだ。 「七月の水曜コンサートが終わると、しばらくMECの出番はありませんよね。なので、気を抜くなとプレッシャーをかけられてきたというか……」 「桧垣さんか」  松田さんが息を吐く。  鋭い三白眼を持つ桧垣信二郎警部補は、警視庁カラーガード隊・MECのトレーナーだ。女性ばかりのMECの中では、多少の居心地の悪さを感じているらしい。MECが共に行動をすることの多い音楽隊の松田さんとは、目つきに定評のある者同士、互いの腹が分かっているようだ。 「久遠さん、桧垣さんに怒られたんですか?」 「九月の水曜コンサートで松田の頭にフラッグ落とすなって?」  同情的な理咲ちゃんに対し、タコさんウィンナー片手に吹き出すのは立花さん。水曜コンサートデビューとなった四月、事もあろうか私は松田さんの頭にフラッグを落とすという前代未聞の失態を犯した。
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