愛を感じて

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「家庭の味に飢えてるもんなー、松田。久遠ちゃんに胃袋つかまれた?」 「なっ……!」 「何言ってんですか、立花さん」  狼狽える私に反し、松田さんは通常モードだ。目元にはいつもの鋭さが戻っている。松田さんは視線を、立花さんから私に移す。 「ちゃんと食えよ。お腹が空いて力が出ないとか言って、脚立に倒れこむなよ」 「しませんよ。それに私の仕事は、蛍光灯交換だけじゃありませんから」  資料のコピーにホチキス留め、蛍光灯の交換。業務支援室に依頼のある仕事は、いわゆる雑用だ。私のMEC応援も業務支援室の業務の一環である。最近ではコピー用紙の補充まで連絡が来る始末だ。 「あんたの仕事って何よ?」 「……着ぐるみに入るんですよ。夏休みに入る子供たちの庁舎見学用に」 卵焼きを手にしたまま、肩を落とす。最新で頼まれた仕事は、庁舎見学者向けに警視庁マスコットキャラクターの着ぐるみの中に入ることだ。 「は?」 「久遠ちゃんが?」 男性陣がそれぞれの反応を示す。 「それ、広報課の仕事じゃないんですか? 庁舎見学の案内、湯山さんがよくしてますよね?」  理咲ちゃんが小首をかしげる。何をしても絵になるかわいさだ。
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