愛を感じて

1/64
前へ
/64ページ
次へ

愛を感じて

 じっとりと肌にまとわりついていた湿気は、空調の効いた屋内では古傷が痛むほどの冷たさに変わる。青や紫の紫陽花が街を彩り初夏の訪れを告げるのに対し、庁舎内では中を歩く職員たちが衣替えしたのを見て季節の移り変わりを感じる。  たとえば音楽隊員の演奏服。四月は合服だったのが、白い半袖に替わった。私も制服のシャツは半袖に替えた。 「みゆりーん、こっち!」  食堂の一角に席を取り、座ったまま手を伸ばして私を呼ぶのは加納柚香巡査だ。彼女は青いシャツを着ている。私とほぼ同じシャツだが決定的に違うのは、その胸に階級章があるかないかだ。  柚香さんの胸に階級章が輝くのに対し、私の胸にはない。それもそのはず、柚香さんは警察官、私――久遠未祐――は警察職員だ。  お弁当を片手に柚香さんが待つテーブルに向かう。柚香さんの向かいには、私と同じMEC隊員の鈴木理咲子巡査――理咲ちゃん――が座っている。 「久遠さん、顔色悪いですよ」 「あんた、さっき別れてから短時間で何やらかしてきたのよ」  心配してくれる理咲ちゃんに対し、やらかしたと決めつけるのは柚香さんだ。
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加