さよなら、ソプラノ。

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 僕らが通うのはキリスト教主義の男子校。僕らが所属するのは合唱部ではなく聖歌隊。そして僕ら三年は、燭火賛美礼拝で引退する。三年は宮野と僕の二人しかいない。  僕らの歌うThe first nowellは本来六節でソプラノ全員がディスカントに上がり、その他のパートがユニゾンで主旋律を歌い、最後の和音だけ六声に別れる。でも、僕ら聖歌隊は七人しか居ない部員の内の二人がソプラノだ。一人約一音。音程の取りづらい不安定な低音に人数を割いた。宮野がソプラノで、僕がディスカントの理由。比べようもないくらい、声量が足りない。  でも僕は宮野がソプラノを歌いたいのと同じくらい、いや、それ以上にディスカントを歌いたかった。僕は一年の時にもディスカントを歌った。けど、緊張して上手く歌うことが出来なかった。  二年の時、僕は指揮者をしていた。先生が忙しくて指導することが出来ない間、隊員の中で唯一ピアノを弾ける僕が練習を見ていた。練習を見ていると歌う時間は必然的に少なくなる。僕の声は昨年に比べて良くない。それでも一年の時のリベンジがしたいとずっと思っていた。三年になったらもう一度ディスカントを歌うんだと。  でも、僕の声変わりは突然始まった。前までは誰よりも、宮野よりも高かった音域はいつの間にか低くなっていた。指揮者をやって僕は「合唱」を大事にするようになって、ディスカントを諦めようとした。  僕は先生に声変わりのことと、パートを変えて欲しいということを伝えた。 「それなら尚更、お前がやるのがいいと思う。最後だろう、聖歌隊も、ソプラノも」  最後、という言葉に胸が痛む。刻一刻と高音が失われていくのは分かってる。分かってるんだ。結局、僕はそれ以上何も言うことが出来なかった。  そして、それから本番まで僕は練習以外で殆ど言葉を発さなかった。声に出してしまうとソプラノが逃げていってしまいそうで怖かった。
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