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翌日の放課後。
美術室へ向かう途中、階段の踊り場から何気なく外を見る。今はもう使われていない古い運動部の部室棟が見える。なんでも、取り壊す費用を確保できない学校側の事情で今もそのままになっているとか。
もしも一条さんが運動部なんかに入部していたらどうなっていたんだろうか。などと考えつつ階段を上り廊下の角を曲がる。
と、その時、美術室の前の廊下に何か大きなものが置かれているのが目に入った。
見覚えのあるアイボリー色の物体。
それは、まぎれもなく毛布にくるまった一条さんだった。
「一条さん。起きてくれ」
肩をゆするも、一条さんは規則正しい寝息を立てつつ爆睡モード。
まあ、さすがにこの程度で目覚めるとは想定していないが。なにせ教師でさえ一条さんの爆睡っぷりに匙を投げる程なんだから。
仕方なく、眠っている一条さんの鼻をつまむ。
「んぐっ」
数秒後、妙な声とともに、一条さんは飛び起きた。同時に俺は彼女の鼻から素早く手を離す。
「香坂くん! 私、今、おっきなパンケーキに顔を埋めて、窒息しそうになる夢を見ました!」
「それは災難だったな。それよりどうしてこんなところで寝てるんだ?」
「え?」
問われて一条さんは、そこで初めて気づいたとでもいうように辺りを見回す。
「ほんとだ。私ってば、どうして廊下で寝てるんですか? いつも通り美術室の中で部活動中だったはずなのに」
つまりいつも通り爆睡してたって事だな。
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