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俺はパイナップルの絵に着彩しようと、パレットに黄色い絵の具を絞り出す。
そのついでに背後で部活動中の一条さんに目を向ける。
あの出来事から一週間。約束通りに彼女の様子を伺うが、時折寝返りをうつくらいで、特に奇行に走ったりなどという事もない。もちろん授業中にも。
結局あれはなんだったのか。
もやもやとした思いを抱えながら絵具を混ぜ合わせていた時、美術室のドアが静かに開き、ひとりの女子が姿を現した。同じクラスの小田原さんだ。一条さんの額にいたずら書きしたソフトボール部員でもある。
彼女は猫のように静かに近づいてくると俺に囁く。
「あの、香坂君、ちょっといいかな? 一緒に来て欲しいの」
「ここじゃ話せない用件なのか?」
「うん、あの、一条さんに関する事で、できれば本人には聞かれたくなくて……」
一条さんに関する事……?
俺はちらりと一条さんを見やる。俺達の話に気づくことなく、いつも通り部活動にはげんでいる様子だ。
この一週間、彼女が心配するような事は起こらなかった。それどころか以前と同じように、実に静かに行儀よく過ごしている。
この分なら少しの間は放っておいても大丈夫なのでは? 俺が小田原さんの話を聞いて戻ってくる間くらいは。
少々考えたのち、俺は立ち上がり、代わりに持っていたパレットを椅子に置いた。
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