眠り姫の夢遊病事件

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「それで、一条さんに関する話っていうのは?」  屋上の手前の狭いスペース。内緒話をするにはうってつけだ。  俺の問いに、小田原さんはしばらくもじもじとしていたが、やがて口を開く。 「あのさ、一条さん、怒ってなかった?」 「怒るって?」 「ほら、あたし達がおでこに落書きした事」 「……別に君達に対しては怒ってなかったぞ」  むしろ霊のしわざだと憤っていた。 「ほんと? よかった」 「そんな事を聞くために、わざわざ呼び出したのか?」 「う、うん。ごめんね。ほら、一条さんっていつも寝てるから、話しかけるタイミングがつかめなくて……」 「そんなに深刻に考えなくてもいいと思うが。とりあえずそれが用事だっていうなら、もうこの話は終わりだな」 「あ、ま、待って……!」  立ち去ろうとした俺を小田原さんは引き留める。 「えっとね、その……あ、そうそう、香坂君の好きな食べ物って何かなーと思って」 「は?」  戸惑っていると、スマホのバイブ音が響いた。小田原さんのだ。  彼女はスマホを確認すると 「あ、ごめん。友達に呼び出されたから行くね。それじゃ、ばいばーい」  先程までのおどおどした様子はどこへやら、軽い足取りで去っていった。  釈然としないながら、俺も美術室へと戻ろうと階段を下りる。  廊下を歩いていると、ふと、黄色い点々が一定の間隔で床についているのが目に入った。それは美術室に近づくにつれ鮮明で大きくなってゆき、まるで足跡のよう……いや、これは足跡そのものだ。  気づいた瞬間、美術室に向かって走り出していた。  勢いよくドアを開けると、いつもはそこにあるはずのアイボリーの塊が無かった。  毛布ごと一条さんが消えていたのだ。
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