12人が本棚に入れています
本棚に追加
「それで、一条さんに関する話っていうのは?」
屋上の手前の狭いスペース。内緒話をするにはうってつけだ。
俺の問いに、小田原さんはしばらくもじもじとしていたが、やがて口を開く。
「あのさ、一条さん、怒ってなかった?」
「怒るって?」
「ほら、あたし達がおでこに落書きした事」
「……別に君達に対しては怒ってなかったぞ」
むしろ霊のしわざだと憤っていた。
「ほんと? よかった」
「そんな事を聞くために、わざわざ呼び出したのか?」
「う、うん。ごめんね。ほら、一条さんっていつも寝てるから、話しかけるタイミングがつかめなくて……」
「そんなに深刻に考えなくてもいいと思うが。とりあえずそれが用事だっていうなら、もうこの話は終わりだな」
「あ、ま、待って……!」
立ち去ろうとした俺を小田原さんは引き留める。
「えっとね、その……あ、そうそう、香坂君の好きな食べ物って何かなーと思って」
「は?」
戸惑っていると、スマホのバイブ音が響いた。小田原さんのだ。
彼女はスマホを確認すると
「あ、ごめん。友達に呼び出されたから行くね。それじゃ、ばいばーい」
先程までのおどおどした様子はどこへやら、軽い足取りで去っていった。
釈然としないながら、俺も美術室へと戻ろうと階段を下りる。
廊下を歩いていると、ふと、黄色い点々が一定の間隔で床についているのが目に入った。それは美術室に近づくにつれ鮮明で大きくなってゆき、まるで足跡のよう……いや、これは足跡そのものだ。
気づいた瞬間、美術室に向かって走り出していた。
勢いよくドアを開けると、いつもはそこにあるはずのアイボリーの塊が無かった。
毛布ごと一条さんが消えていたのだ。
最初のコメントを投稿しよう!