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夜の帳が下りる頃、窓が急激に強い光に包まれた。それは次第に近づき、空の怒りを買うように、大雨と強風を連れた雷が鳴り響いた。
その直後、突然村外れにある駐在所の電話のベルがけたたましく鳴った。
「……もしもし、あの……お願いします。どうか、どうか……私の坊やを探してください……」
声を振り絞るように弱々しい声で、助けを求める女からの電話だった。
「一体、何があったのですか?」
「いないんです……」
「迷子ですか? それとも、まさかとは思うが放置したんですか?」
「どちらでもありません」
「それは、どういうことですか?」
「あの子は今朝生まれたばかりなのです。この世界のことをまだ何も知らないのに、独りで彷徨っているのだと思うと、居ても立ってもいられず、途方に泣き暮れているのです。どうか、私の坊やを探し出してはくれませんか」
「何があったのですか? 誘拐ですか?」
「それも違うと思います」
「ならば、赤ん坊が一人で歩いてどこかに消えた、とでも言うのですか?」
「はい、その通りです。私がちょっと目を離した隙に、もういなくなってしまいました」
俄には信じがたい話をする女であったので、こんな大禍時にいたずら電話をかけるとは、少しおかしな人なのではとけんもほろろに相槌を打った。
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