雨上がりの月夜に

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すると、突然私の携帯電話のベルが鳴り出した。静けさを(まと)ったその空気は、一際静寂を引き立たせた。 私はそのまま耳に当ていつものように電話を取る。先ほどと同じ番号だ。 「もしもし……」 「…………」 「あなたは今どこに?」 「ここにいます」 「ここに? どこにもいないではないか」 「ずっといます。あなたの目の前に」 私は、はっとして思わず息を呑んだ。 「坊やを探し出してくれてありがとう」 母鹿が「キイー」と一鳴きすると、電話口からは、「ありがとう」と女の声が囁いた。先ほどの声と同じだ。 「あなたが探していたというのは、この子だったのか」 「はい、坊やが無事でほっとしました」 (にわか)には信じられなかったが、不思議とその状況を受け入れている自分に気付いた。
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