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もう辺りはうっすらと白みを帯び、夜の静寂に終わりを告げようとしていた。
母鹿は 一度振り返ったが「早く行け!」と急かすように私は追いやった。
それとすれ違うように、一人の男の職員が倉庫へとやって来た。
「おかしいなあ、どこにやったかなあ。あれ? 駐在さん、どうしてここに?」
慌てた様子で私に一声かける。しかし、視線は右へ左へと流れ、その心は上の空だ。
「あなたこそ、何かお探しですか?」
「いえね、グレーのケースに入れてましてね、昨日から探しているんですが、どこかに落としてしまったみたいでね」
「それは大変ですね。それで、何を?」
「あれは、ないと急に不安になりますよね。今は手持ち無沙汰の必需品ですからね」
男はぶつぶつと呟きながら、倉庫の中をキョロキョロと探している。
「あ! あった。あんなところに!」
檻の前に視線をかざし、ようやく自分の求めていた物を手にしたようだった。
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