雨上がりの月夜に

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「携帯電話でしたか」 男は大事そうに携帯電話を掴み、電源を押して中身を確認したり、ハアハアと息を吹きかけ袖口でゴシゴシと画面を拭いたりしている。 「ところで、この檻には何かいましたっけ?」 「昨日、一日中をかけて鹿を捕獲したではありませんか」 「ああ、そうでしたね。そうか、その時に携帯電話を落としたのかな。あれ? でも、その鹿は今どこに? まさか、逃げ出したのか?」 「私も心配になって見に来たんです。そしたら、麻酔が強すぎたのか、鹿はぐったりとしていましてね。今し方処分していたところなんです」 「そうでしたか、それはお一人で大変でしたね。鹿にはかわいそうなことをしました。村の人たちを守るためとはいえ、どうにかならないものですかね」 「今後の課題ですね」 「それにしても、この携帯電話何だかキズが多い気がするなあ。こんなにひどかったかなあ」 広がり始めた薄紅の地平線に顔を照らしながら、男は家路へと帰っていった。 私は木々の中に消えていった親子の影を辿り、その場所から見える朝朗(あさぼらけ)の空を、いつまでも眺めていた。
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