雨上がりの月夜に

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亥中(いなか)の月が行く道を指し示すように光を照らし、その薄闇の中を手探りのままどんどんと奥へ進んでいった。このような雨空の中、月明かりが見えたのは幸いであった。 すると、女が話していた通り、垂れ下がって連なる白い花を咲かせた樹木が見えてきた。 その花はスズランのように可憐に花を開かせ、白い花を花枝に沿って行儀よく一列に並べて、小さな鈴の音を密かに響かせるかのごとく、闇夜の葉に隠れるように咲いていた。 「ここか」 次第に暗闇に慣れてきた視界を頼りに、川沿いとその周辺を隈無(くまな)く探した。 雨は一向に止む気配を見せず、足元も滑りやすくなっている。やはり危険だ。こんな中で幼い子どもが彷徨っているのだとしたら、どうなってしまうのか火を見るよりも明らかだ。 もしあの女の言う話が本当であるならば、一刻も早く探し出さなければ、大変なことになる。自分の心の中に生まれた(ささ)やかな正義感は、私を大いに奮い起こさせた。 あの女はこうも言っていた。 「ネジキという木は葉や花に毒があるのです。それに坊やが触れたり口にしたりしてはいないか、それが不安で堪らないのです」 「とりあえず、ちぎったり(かじ)ったりしたあとはなさそうだ」 私は邪念を振り払うように、もう一度川沿いを往復した。
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