雨上がりの月夜に

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どれほどの時間を探していたのであろうか。 雨風も徐々に勢いを落とし、視界も先ほどよりは見やすくなった。だが、雨水によって現れた泥濘(ぬかるみ)は、より滑りやすくなった足元を覆い、一層困難を極めた。 私は、疲れた身体とまだ少し降り続く雨を凌ぐために、目の前に見つけた洞穴で少しだけ休むことにした。 濡れた顔をハンカチで拭うと、ふと自分の方へと向けられた意識を感じた。 そこには先客がいたのだ。小さく輝く二つの光が一瞬こちらを見つめたが、すぐにその光は私から()れた。 まだほんの小さな子鹿が一匹、雨宿りをしていたのだろうか、独り洞穴の隅で息を潜めて座っていた。 母鹿とはぐれてしまったのだろうか。 洞穴の中に震えるようにして小さく丸くうずくまり、雨に濡れてしまったせいなのかブルブルと小刻みに身体を動かしている。 私が声をかけると、潤んだ目をした眼差しをこちらに向け、しばらくじっとこちらの様子を(うかが)っていた。 私は子鹿の方へゆっくりと近づき、そっと口元に手を触れた。子鹿は抵抗することなく、私の手を受け入れた。 独りでいることの不安と恐怖から解放されたからなのか、足元に寄り添い、私の(くるぶし)を舐め始めた。 独りでどのくらいここにいたのだろう。それとも、よほどお腹が空いているのだろうか。子鹿はずっと私の側にいて、離れることを忘れたようであった。
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