一番の恋情

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【少し遅れる】 絵文字も何もない佑樹からのメッセージを見て、そのままスマホをしまった。 暗くなった空。 行きつけのカフェで、コーヒーを飲みながら左手の薬指を見つめる。 高校時代からの彼、佑樹にプロポーズされたのはつい先週のこと。 幸せ絶頂のはずなのに、その指輪を見て溜息を吐いた。 「なーに溜息なんて吐いてんだ?」 「なんだ、陽平」 「なんだとはなんだよ? お前らに呼び出されたから来たんだぞ? てか、佑樹は?」 周囲を見渡した陽平は、私の目の前に腰をおろすと、目ざとく薬指の指輪をとらえた。 「まさか、お前ら結婚すんの?」 「うん、」 陽平の手が、私の左手の薬指の指輪にそっと触れる。 陽平と私は、幼稚園の頃からの幼馴染み。 腐れ縁というべきか。 「そっか、結婚すんのか」 陽平は小さな溜息を漏らすと、真っ直ぐに私のことを見つめた。 「俺たちのこと、佑樹に話した?」 「話すわけ、ないじゃない」 話す理由もない。 話さなければいけない理由もない。 陽平と私は幼馴染み。 今日までのほとんどの関係はその一言に尽きる。 佑樹と出逢う前、中学時代に3ヶ月位付き合っていたこともあるけど、好きって気持ちが、恋なのか友達としてなのかわからなくて。 身体を重ねたら、ただ居心地が悪いだけだった。 そして、あっけなくジ・エンド。 友達に戻ってしまったから。 高校に入学して、陽平の友達の佑樹と付き合うようになってからは、その過去に悩んだこともあったけれど、大人になった今は、あの3ヶ月の日々が現実だったのかさえも、よくわからない。 「じゃあ、今夜佑樹が来たら話そうか?」 「どうして? そんな必要ない、」 陽平は私の指から指輪を抜き取ると自分のポケットにしまった。 「ちょっと、返してよ!」 立ち上がって奪い返そうとすると、後ろから肩をポンと叩かれた。 「遅くなって悪かったな」 「本当だよ。呼び出して待たせるなんて、最悪だな」 「悪い」 「まぁいいさ。それより、綾から聞いたぞ? 結婚するんだって?」 左手で頬杖をついた陽平。 右手がテーブルの下から伸びてきて、私の脚に触れる。 「あぁ、結婚する」 真っ直ぐに私を見つめる佑樹の目は、私を裏切ることなんてないだろう。 「せいぜい結婚式は遅刻しないことだな。じゃないと、俺が綾を式場から奪い去る」 「遅れないよ。お前に奪われたらたまんねーからな」 冗談なのか本気なのか、陽平はテーブルの下で私の左手を握りながら、佑樹を見つめた。 fin
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