江ノ島が近付いてきた、私の家が遠退く

1/1
前へ
/122ページ
次へ

江ノ島が近付いてきた、私の家が遠退く

 白浜沙希、フルーツの香りがする夢のような女子。長距離走が苦手な私でも、歩くような速さで走れば3キロくらいは余裕で走れるようになった。中1の陸上を始めたばかりだったころはそれさえもキツかったけど、徐々に体力がついてきた。  現在地は茅ヶ崎市東部、浜須賀(はますか)汐見台(しおみだい)。名の通り、いま私が走っているサイクリングロードの脇に海が一望できるウッドデッキがあり、ジョグやサイクリングの休憩地点にもなっている。開けた土地だからか、ここ数年はテントを張ってキャンプやバーベキューをする地元住民らしからぬ人もよくいる。  海辺のバーベキューは砂が飛んできてバーベキューの肉に付着するから個人的にはおすすめしないし、地元住民はそれを知っているから私と同意見の人も多いけど、やりたい人もいるみたい。持参したものは持ち帰って、くれぐれも捨てて帰らないでほしい。  不法投棄、ダメ、ゼッタイ!!!!!!  ホントにやめて。マジで。地元の人たちカンカンだから。もう二度と来るなってなってるから。あと通行の邪魔。デッキの欄干にテントの紐くくり付けるな。  だんだん江ノ島が大きく見えるようになってきた。  サイクリングロードのところどころには砂浜から飛んできた砂がどっさり堆積(たいせき)して、自転車は降りなければ進めない箇所があちこちにある。ランナーとしても足を取られて厄介だ。これを除けてくれる人には本当に感謝だ。ありがとう!  ありがとうございます!!!!!!  ありがとうといえば、まどかちゃんのために特別メニューを提案した私も大変有難い親友だと思う。いまごろふたりっきりで何してるかな?  練習サボって物陰で何かしちゃってるかな?  ほら、ね? いいでしょ自由電子くん。  やっ、やめてください城崎さん……。  そんなこと言って、ホントはもっとしてほしいんでしょ。  うあっ、ああああああん!!  なんて展開になってたりするのかな!? 私のおかげで!!  ぎゃはははは!! こりゃめでたいと笑いたいところだけど、独りで笑ってると不気味だし、ジョグの最中で体力的余裕がない。喋るのもしんどい。 「ねぇママー、あの人変な顔してるー」 「しっ! きょうはバレンタインだから、きっと好きな人とあんなことやこんなことになる妄想をしてるのよ!」  擦れ違った5歳くらいの男の子とそのお母さんらしき人に言われた。  あれ? 私、変な顔してる?  無自覚に変な顔をしているときもあるのか。気を付けよう。  だがしかし、私が妄想してるのは自分のことではない。残念だったなヤングママ。  だらだら走っていると近いうちにセンコーがチャリで追いかけてくる恐れがある。後ろに付かれて走られると本当に鬱陶しいし、チャリを奪って逃亡したくなる。  どうしよう、最終的に江ノ島に着けばいいし、コース変えちゃおうかな。  現在地点は辻堂東海岸、湘洋(しょうよう)中学校付近。もう少し行くと国道134号線に抜けられる地下道がある。そこからラブホとかレストランが建ち並ぶ山側の歩道に出れば、片瀬江ノ島(かたせえのしま)駅前まではいつものコースと合流しない。  いつもチャリが追ってくる地点はさっきの浜須賀汐見台辺りだけど、江ノ島に先回りして待ち伏せている可能性もないとは言い切れない。  とりあえず折り返し地点まで行っておけば、なんで途中で会わなかったんだとセンコーに訊かれたときに鵠沼(くげぬま)のお手洗いに行っていたと誤魔化せる。  よし、これで行こう。  計画通り、私は鵠沼海岸の地下道を潜って国道の広い歩道に出た。  しかしいつものコースはこの反対側の歩道。よく考えてみたら、4車線の縁石ありとはいえ車道越しに発見される恐れもある。  裏道に逃げる手もあるけど、距離が延びる。いま山側にコースチェンジしただけでも少し延びてるのに、これ以上は本当に勘弁。仕方ない、ここで妥協しよう。
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加