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「親父、あの子はちゃうやろ。来る家を間違えとるよ。」 三、四里離れた村からやってきた俺の妻になる娘が顔を見せた時、つい「嫁ぎ先の家を間違えたんだろう」と思った。 友達は二十歳そこらで全員結婚し、俺はついに適齢期という年齢を五周りは過ぎた。財もない不細工で熊みたいな風貌の俺には、同じように貰い手がなかったブスかババアが来るもんだと思っていた。 結婚式当日に初めて顔を合わせたのはまだ15、6の可憐な少女だった。体の線が出ていない花嫁用のワンピースの上からでも、柳のようなほっそりした体つきだとわかる可愛らしい女の子だ。 顔は俯いたままで目線は全く合わなかったし、愛想笑いもしない生意気な雰囲気だったけど、こんな「大ハズレ」の俺の元へ嫁いでくるような少女ではないことだけは確かだ。 「何言うとる、あの子がお前の嫁さんだよ。」 「俺なんかにあんな可愛い子がくるわけがなかろ?」 「わしがちゃんと向こうの家に行って結納金納めてきたんじゃ。そん時にあの子にも会ったんじゃしあの子で間違いないよ。」 我が家が出せる結納金なんて雀の涙、耳かきいっぱい、ひとつまみ、申し訳程度…、とにかく僅かしかないはずだ。それなのにあの子は上玉すぎる。どう考えたって、顔だけで金持ちの男の元へ嫁いだっていいくらいだ。 俺は納得がいかないまま滞りなく結婚式は行われた。形だけだったけど口づけもした。その間、俺の嫁になる女の子の声は一言も聞くことはなかった。たまに聞こえてくる啜り泣き以外は。
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