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五月中旬。ようやくなじみ始めた制服に身を包んだ生徒たちに、初夏の明るい日差しが差しこんでいる、一年二組の教室。
一限目の先生がまだ来ていないこの時間、教室内はにぎやかだった。
そんな教室の中で、なにやらノートにシャープペンシルを走らせていた彼は、わたしに気さくに「それ、貸してくれる?」と言い、消しゴムを指さしたのだ。わたしはすっとぼけて「何のこと?」と返したけれど、何ら効果はなかった。
なぜ、無防備にも消しゴムを机上に転がせていたのか。
今さら悔やんでも、もう遅い。中嶋は自分の名前が書かれているとも知らないそれを、ただ貸してほしいと言っているだけなのだから。
わたしと中嶋は幼なじみだ。
軽口を叩き合える仲であるがゆえに、物の貸し借りも気軽にできてしまう間柄だった。
「えっと……」
言葉がつまってしまったけれど、にぶい彼はそれに気づかない。
となりの席の特権とばかりに、無遠慮に机に手を伸ばし、消しゴムをさらってしまった。
「ちょっと借りるな」
「あ!」
小さく悲鳴を上げたときには、もう遅かった。
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