片恋消しゴム

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 消しゴムの恋まじない。  誰もが一度は聞いたことがある、簡単な恋愛成就のおまじないだ。  消しゴムをケースからはずして、本体に片想いの相手のフルネームを書く。それを誰にも見られずに使いきれば、両想いになれるというものだ。書くペンは赤だったり黒だったりするけれど、わたし戸田(とだ)るりが卒業した小学校で流行(はや)っていたのは、ピンクのペンで書くパターンだった。  わたしはピンクの油性ペンで、片想い中の相手の名前「中嶋悠(なかしま ゆう)」をしっかりと書きこんで、ケースに戻した。それをまた厳重にペンケースの奥にしまいこんで、さらにペンケースを通学かばんの奥に入れ、学校と家を行き来した。  マトリョーシカのように奥へ奥へとしまいこまれた、片想いの証を刻んだ消しゴム。  それは中学一年生にしては、幼い行為だったのかもしれない。  そして現在、わたしはその行為によって─────こんなにも困惑している。 「だから、消しゴム貸してって」  図々しくもそう言いはなったのは、となりの席の中嶋だった。  そう。まさしく、片想い進行中の相手だ。
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