こいてきさがし

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 なんで俺はこんなことをしているんだろう。  土曜、隔週の授業後。以前なら友人とラーメンに行った後カラオケがルーティーンだったのに…」  「現状維持は退化と同義らしいよ」  隣でクラスメイト、かつ本題の元凶である鴻上が呟く。知らぬうちに口から漏れていたらしい。  現状維持ではない。ラーメンだって毎回新しい店に行ってたしカラオケの選曲だって…これ以上はやめておこう。いつ口から漏れ出るかわからない。  「で、今日はどこなんだ」  「浦真駅のパルコ。占いでは、喫茶店でイケメン店員がコーヒーこぼしたお詫びにデートしてくれるらしい」  「占いなのに具体的過ぎない?」  「今って多様性社会らしいよ」  「使い方。で、俺の役は?」  「私のお兄ちゃん役」  「何かするの?」  「しない」  「要らなくない?」  「エキストラって大事らしいよ」  こうして俺の土曜が溶けていく。鴻上の幼い夢物語と謎の占いに付き合わされ、本屋やらカフェやら、居もしない白馬の王子様を探しにでる。成果が得られたことはない。だからこそ今も俺がここに連れられているわけだが。俺の役は不明だ。さしずめ馬を釣るニンジンだろうか。いや、何もしないことを考えるとニンジンの方がまだましか。  楽しくない。…わけではない。不本意な形ではあるが、鴻上と二人きりで休日の午後を過ごせている。  しかしながら、鴻上の向ける目線の先は、きっと俺ではないのだろう。そして、この不本意な恋敵探しが終わると、きっとこの不本意な午後は終わるのだろう。鴻上は白馬の王子様と過ごし、俺は以前通りラーメンを食べに行く。…お互い良いことではある。なんなら今後は断った方がお互いのためでもあるのか?男が近くにいると王子様も近付きにくかろう。来週からは断ったほうが良い」 「やだ」 「…俺どこから口に出してた?」  「…知らない」 「…」 道の喧騒が大きくなった気がする。 「…占いのラッキーポイントは噛ませ犬らしいよ」 「兄は噛ませ犬かよ。…てか毎回?」 「毎回」 「…そうか。じゃあ、まあ、しょうがないよな。」  不本意だけど。最後の言葉は口から漏らさず、喉の奥にそっと溶かしこんだ。  
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