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次の日曜日、私は美術館にいた。高崎さんに教えてもらった連絡先をもとに電話をかけたのだが、そこにも父の絵はなかった。その方が言うには美術館に寄贈したとのことだった。そのため私は生まれてはじめて美術館へと足を運んだ。
入場料を払い、父の絵を見逃さないように一枚一枚じっくりと見る。父の絵のタッチなど分かりようもないので、作者の名前もじっくりとチェックする。母が言うには、父が描いた絵のほとんどは行き先が分からない。父もまたその話題を持ち出すことはなかったそうで、私が描かれた絵以外を探すのは無理だと私は判断した。それを諦めたならば私は一生、父の絵が見られない気がする。
欲を言えば生前の父に教えて欲しかった。知っていたならば父に絵を教わることもできたろう。知っていたならばきっと父は自慢の父だったろう。父との思い出もずっと多かったろう。考えれば考えるほど悔しい。父は私を見守る穏やかな微笑みの中にどれほどの想いを込めていたのだろう。
一枚一枚ゆっくりと確認して私は最後の一枚を確認する。父の名前はどこにもなかった。私はもう一度一枚一枚確認して、結局三周したが、父の絵はどこにもなかった。
私はいても立ってもいられずに受付へと早足で向かう。
「すいません! ここに黒瀬豊の絵があるって聞いてきたんですが!」
受付のお姉さんは私の必死そうな顔を見て首を傾げる。
「黒瀬豊さんの作品は、今ここにはありません。どういう用件でしょうか」
「私、黒瀬豊の娘なんです! 父さんの絵を見てみたいんです!」
私は必死に声を絞り出す。お姉さんは困った顔をするが、少々お待ち下さいとどこかしらに電話をかけた。
私の目からはまたボロボロと涙が溢れる。どうしても父が見つからない。私の知らない父が見つからない。見たいと思うのはそんなに無理な願いなんだろうか。
お姉さんは、メモ帳に何かしらを書いて受話器を置いた。そのメモを私に渡してきた。
「黒瀬豊さんの絵は黒瀬豊さん自ら、一年前にこちらから持ち出されたようです。こちらが現在の持ち主とのことです」
私はそのメモに目を落とす。そこに書かれていた名前に私は目を疑った。
「校長?」
そこに書かれていたのは私の通う高校の校長の名前だった。
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