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第一章 貧しき人形使い
狭い部屋に鈍い音が響き渡る。
「………痛い」
男は自分の額に置かれていた小さな木製の球体が付いた棒を横に払い、ベッドから起き上がる。そして棒の先をなぞる様にして見上げ、そして見下ろし、枕元にある絡繰り箱に目を向けた。
「時間に正確なのは良いんだけれど………寝起きに叩かれるのは精神上、よろしくないな」
これが金属球だったら死んでいたかもしれないと、男は箱のふたを開ける。
中は大小の歯車と、砂時計が目立つように置かれていた。
「頭を叩く素材を考え直すか」
後頭部を掻きながら、男は改良点をいくつか思い浮かべる。砂時計と重しの関係を利用して、決められた時間で球体が落下するところまでは成功だが、目覚ましの道具とするにはまだまだ課題が多いと結論付け、最後に大きな欠伸をして、思考を停止させた。
「まずは朝ご飯、朝ご飯」
男はベッドの横にある小棚に置かれた丸眼鏡をかけると、部屋を後にして居間へと進む。1人暮らしとしては狭い寝室、代わりに作業場兼居間をやや広めに作られているこの住居は、男にとって都合の良い間取りで、大層気に入っていた。
「おはよう、スクヴィラ」
男は、居間の奥にある小さな椅子で腰掛ける少女の黒髪を頭の上から撫でる。
だが、白い肌をもつ黒髪の少女は身動きせず、それどころか瞬きもせずに座ったままであった。太陽の光を浴びて腰まで届く黒髪や服、肌が劣化しないよう位置取っているが、日差しが入る部屋と全く入らない影の空間の境界線付近に居座る少女は、不気味ささえ感じさせる。
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