第一章 貧しき人形使い

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 男は、台所の戸をいくつも開けるが、朝ご飯と呼べるものは見つからなかった。 「しまった………昨日のパンが最後だったか」  調味料しか見つからなかった男は、仕方なく水瓶から一杯の水をすくい、それをテーブルの上まで運ぶ。 「さぁて、何か新しい情報はっと」  コップの水に口をつけながら、昨夜テーブルに置いた新聞を手に取った。新聞の日付は昨日だが、である以上、文句は言えない。男には、新聞を買うだけの余裕がないのである。  新聞にはこの街の事件や事故、政治の話、随分前の他の街の話など、明るい話題よりもそうでない話題の方が多いが、いつも通りと言えばいつも通りであった。 「………ブレイダスからの使者が到着、か」  男の目がある記事で止まる。  記事には、ここから西にある大都市ブレイダスの使者と街の(おさ)との会談について書かれていた。会談の内容は基本的に政治的なものであったが、男は他の街からそれなりの地位の人間が来るという情報のみ、何度も読み込んだ。 「昨日の内で会談を済ませているのなら、今日は街を見て回る可能性があるな」  男はコップを空にすると頭の中で今日の予定を組み立てる。 「よし」  新聞を折りたたみ、男はコップを台所に片付ける。そして顔を洗い、歯を磨くと、居間の隅にある作業スペースへと向かった。 「今日は………ブレイダスにちなんで『星降りの天災』の話にしようか」  手を広げた程の大きさの人形、予備の紐や布、他にも今日の仕事に必要な道具を次々と木箱に詰めていく。そして最後に白い肌の少女を専用の木箱に入れるとそれらを頑丈な麻紐で括って背負子(しょいこ)に積み重ね、最後に太めの麻紐で固定させた。
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