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魔法は体内に存在する魔力、その源たる無名の粒子に精神力を混ぜたものを放出することで生まれる。体内で魔力を作り出すが故に、体に接した部分から魔法が放たれるのが理である。剣や杖など、体に接している道具を経由することは出来ても、体から離れた場所から奇跡を生み出すことは、魔法史上あり得ない。
「理から外れた者………まさに世の異物よ」
顔にしわを集めるスクヴィラ。
「褒め言葉として、貰っておこう」
背後で地面を這う古の魔王を見下ろし、相田が歯を見せる。
水面の中心から生まれた剣は、剣先を中心に回転し始め、円錐状の渦を生み出した。
「射出」
役を演じるかのように不敵に笑う彼の一言で、剣先を軸に回転した刃が吐き出された。キエフは人の頭ほどの大きさの石の塊を糸で持ち上げて壁にするも、十分な速度を得た刃は石を穿ち、粉し、軌道も殆ど変えることなく、直進し続ける。
「ひっ!」
まるで横から降く絶死の雨に、キエフは走りながら上半身を守るように両手を交差させるしか取る手がなかった。彼の横を掠り抜けた刃は、彼の服の一部を食い千切りながら地面に衝突し、大きな衝撃音と共に土煙を巻き上げていく。
「どこへ、逃げようというのかね」
相田に思わず笑いが漏れる。
「往生際が悪いぞ?」
感情の山を越え、相田の心は谷へと転じ始めた。それでも彼は目の前の男を滅しようと、次々と空気の水面を生み出しては、剣の螺旋を放ち続ける。対するキエフは息を切らしながらも走り続け、諦めずに糸を操り、放たれる閃光の軌道を反らそうと藻掻いていた。
「ふん、無駄な―――」「無駄ではない」
相田の背中に寒気が走り、すぐに熱さが、最後に神経を逆撫でるような激痛が走る。
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