第二章 親子共闘

9/11
前へ
/410ページ
次へ
「………何をしている」  相田が古の魔王に問う。 「さぁな。吾にも理解できぬ」  少女は自嘲し、曖昧に答える事しかできなかった。  相田の持つ黒き刃の刀身が、少女の肩に乗ったまま全ての動作が止まっていた。 「だが今の吾には………ふ、魔力の切れた案山子にはこれしかできぬ」  驚くキエフを前に、両手を広げたスクヴィラが微動だにしない。 「スクヴィラ………」  父親の盾になっていた娘が僅かに振り向く。その動きは明らかにぎこちなく、油の切れた鉄が擦れるような異音を鳴らしていた。 「吾は魔王。魔王スクヴィラぞ? 吾が父として認めた以上、娘として振る舞うは己に課した義務というものだ」  あくまで義務だと口にする彼女は、キエフに優しく微笑む。 「この体の持ち主にも、これで納得してもらうしか………ある、まい」 「スクヴィラぁぁっ! ぐぅぅっ―――」  キエフが娘を両手で包み込み、言葉にならない音を立てながら泣き崩れた。 「………何だよ、こいつぁ」  相田の手が震え始める。 「これじゃぁ、俺が悪い奴みたいじゃねぇかよ」  天を仰ぐ。彼の心は、愛した女性を手にかけられた怒りの矛先を失い、迷走していた。そして、今度は無力感と罪悪感が流れ込み、相田を1歩、また1歩と後退させる。 「これじゃぁ………」  汚れた右手で目元を隠す。手から離れた黒い刃は地面に突き刺さり、持ち主を失ったかのように、黒い霧となって消滅していった。    
/410ページ

最初のコメントを投稿しよう!

258人が本棚に入れています
本棚に追加