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「………何をしている」
相田が古の魔王に問う。
「さぁな。吾にも理解できぬ」
少女は自嘲し、曖昧に答える事しかできなかった。
相田の持つ黒き刃の刀身が、少女の肩に乗ったまま全ての動作が止まっていた。
「だが今の吾には………ふ、魔力の切れた案山子にはこれしかできぬ」
驚くキエフを前に、両手を広げたスクヴィラが微動だにしない。
「スクヴィラ………」
父親の盾になっていた娘が僅かに振り向く。その動きは明らかにぎこちなく、油の切れた鉄が擦れるような異音を鳴らしていた。
「吾は魔王。魔王スクヴィラぞ? 吾が父として認めた以上、娘として振る舞うは己に課した義務というものだ」
あくまで義務だと口にする彼女は、キエフに優しく微笑む。
「この体の持ち主にも、これで納得してもらうしか………ある、まい」
「スクヴィラぁぁっ! ぐぅぅっ―――」
キエフが娘を両手で包み込み、言葉にならない音を立てながら泣き崩れた。
「………何だよ、こいつぁ」
相田の手が震え始める。
「これじゃぁ、俺が悪い奴みたいじゃねぇかよ」
天を仰ぐ。彼の心は、愛した女性を手にかけられた怒りの矛先を失い、迷走していた。そして、今度は無力感と罪悪感が流れ込み、相田を1歩、また1歩と後退させる。
「これじゃぁ………」
汚れた右手で目元を隠す。手から離れた黒い刃は地面に突き刺さり、持ち主を失ったかのように、黒い霧となって消滅していった。
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