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第三章 繰り返される歴史への一穴
目を開けると、そこは様々な色の花が咲き乱れる園であった。丘の上、空は青く、細く薄い雲が波に身を任せて流れていく。
―――これは現実ではない。
古の魔王は即座に判断した。
自分には不似合い、不釣り合いな世界であり、ましてや望んだ世界でもない。彼女は自分が花園の中で寝かされていることに気付いて手を地面へと乗せた。
すると、その部分を中心に植物は色だけが黒く染まり、白と黒の世界を作り始めた。
古の魔王が鼻で一蹴する。
「吾には、この方が似合いだ」
自分を中心とする半径1メートルの世界を黒変させ、彼女は立ち上がった。
見える世界がいつもよりも広い。いつもよりも視界が高く、手足が長い。古の魔王は、かつての姿をしていた事に気付く。
「またお前達か」
さらに、いつの間にか相対していた2人に目を向ける。
1人は友と呼んだ少女、もう1人は人形の素となった少女。
2人は手を繋ぎながら小さく手を振り、笑顔を見せていた。一見すれば、自分を招いている様にも見えるが、古の魔王はそう捉える事をしなかった。
「ふん、あれで満足か? だが、勘違いするでない………あれはあくまで、吾と奴が望んだ先の結末にすぎぬ。運命などという、つまらぬ楔に付き合うつもりは毛頭ない」
古の魔王は足元の花を摘んでみせるが、それはすぐに黒くなり、やがて風と共に消失する。
「吾にお前達の描く未来は似合わぬ。この風景も吾に似合うものではない………だが、この光景だけは生涯覚えておこう」
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