第三章 繰り返される歴史への一穴

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――――――――――  目を開けると、そこは空の半分が灰色の雲を占めていた。硬い大地の上、冷たい風が体を撫でながら通り過ぎていく、空しい世界。 ―――これは現実か。  相田には即断できなかった。  だが、視界に見知った女性の顔が映り込んだ。 「コルティ………そうか、やはりお前が迎えに来てくれたのか」  どうやら元の世界に戻った訳でもなく、この景色も現実ではないのか。相田は落ち着きながら大きく息を吐き出す。 「もちろんです。ご主人様を迎えるのは、私の役目ですから」  長年付き添い、心を許し、愛した女性を目にできた相田が満足そうに、そして静かに『そうか』と頷く。  後頭部が沈む。相田は自分が彼女の膝を枕にしていたことに気付くのに多少の時間を要したが、その時間もまた心地よいものであった。血生臭い場所にもかかわらず、息を吸う度に太陽の光を浴びた服の匂いが鼻の奥へと進んでいく。 「そうか。本当に………良かった」  それが彼の全てであった。 「はい。私も………本当に良かったです」  コルティの顔が相田の顔に沈んでいく。僅かに震える彼女の猫髭は相田の顔を何度も擦るが、今更嫌なものではなく、細い髭から彼女の想いが伝わっていく。 「馬鹿垂れ………それはこっちのセリフだ」  時間と共に、そして体を動かそうと試みるごとに痛みが増していく。 相田は、お互いに生きていたことをようやく悟った。
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