第三章 繰り返される歴史への一穴

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「お父さん」  傍にケリケラが立っていた。相田は震える右手を彼女の首元へと伸ばすと、彼女もその意味を理解して体を預け、そのまま何度も頭と背中を撫で回す。 「大丈夫じゃないが………とりあえず大丈夫だよ」 「うん。お父さんが生きてて良かった」    残った視界に灰色の空が映る。太陽は既に西へと傾き、全ての空を塗り替えようと風が雲を引き、それにつられて寒さまでもが介入してきた。  相田は体に力を入れようとするが、膝は曲がらず爪先が微かに曲げられる程度。腕も10秒も上げれば疲労に敗北し、地面へと無条件に落下した。 「体が………動かねぇ」  背中の鈍痛が何度も心臓を叩く。体は自分が地面と一体化したかと思う程に冷え、苦悶の表情を浮かべることすらできない程に力を失っている。 「ふん。貴様は回復魔法が効かぬのだ。あの傷と出血でまともに動けるはずもなかろう」  視界にはないが、スクヴィラの声が届けられる。相田は、コルティに自分の頭を曲げてもらうと、そこには冷たい地面の上で胡坐をかくキエフの足を椅子代わりにして座る魔王の少女がいた。 「まさに父と娘ってか。随分と似合ってるぜ」 「戯け。貴様もその状況で言えた口か。まったく………吾としたことがとんだ失態だ。背中だけでなく口も一緒に縫わせてやればよかったわ」  スクヴィラの表情が呆れかえるが、彼女の方でも体を動かす度に、亀裂の入った作り物の体が小さく軋む。
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