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誰かに未来を決められている怒り、しかし後になって計画された結果だったと気付き、自分が無力だと思い知らされる虚しさ。それらが混ざり合うことなく撹拌し続け、彼を限界の直前まで追い詰めてきた。
だが、今回の件は一つ間違えば、最愛の者を失う事になりかねなかった。それは、これまでとは比較にならない程の事象であることを示している。
「いい加減にしやがれ」
精一杯の声。
「だが結果として、貴様の腕は元に戻った」
感情が一切入り込む余地がない絶対的な事実。大魔王の言葉は、相田の口から言葉を奪った。
大魔王は相田を見下ろしながら続ける。
「お前はいつも余を責め立てるが、余が動く全ての原因は、貴様の弱さという一点のみに基づいている。魔王という絶対的な位置に座していながら結果に恐れ、中途半端に、遠回りに事が進む。お前は余に『いつも』と吐くが、余の方こそ『いつも』と返したいところだ」
黒く変色した腕は、やがて相田を死に追い込む。それを知りながら、あらゆるリスクを負ってでも解決しようとしないもどかしさ、それどころか自分の最期すら受け止めようとしていた無責任さ、その思いが自らの能力を発動させ、症状を悪化させていた愚かさ。大魔王は相田を静かに、そして確実に追い込んだ。
相田はコルティやケリケラに視線を送るが、彼女達は何も答えない。それは、大魔王の言葉に理があることを意味すると、相田は身をもって知っていた。
まるで世界の中で孤立しているかのような恐怖と自分への情けなさが体を駆け回る。相田は震える拳を振り上げようとするが、その抵抗も数秒程しか続かない。
「体が治ったら、絶対にお前をぶっ飛ばしてやる」
「ふん、面白い。ならば、さっさと体を癒すがいい」
だが、と大魔王が西の地平線を見上げた。
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