258人が本棚に入れています
本棚に追加
「………逃げる。それしかないだろう」
悔しさもあるが、相田にとっては後ろ髪を引かれるほどではない。
「仲間も街の亜人達の避難は既に終えているし、彼女との決着もつけることが出来た。これ以上、ここで戦っても意味はない」
この街の安全を保障できるだけの余裕はないが、自分達が撤退すれば会社も戦う理由がなくなる。相田はそう判断することで自分を納得させ、自分とその仲間達の安全を優先する事にした。
「でもお父さん。一番近くの移動法陣まで1日半はかかるよ?」
遠く東と西を交互に見るケリケラの主張は正しい。
亜人達の国に繋がる移動用の魔方陣は、当然ながら人間達には気付かれない場所に設置してある。既に先発している避難民達は、十分な時間と距離が稼げているが、これから撤退する相田達は、常に追手の危険がつきまとう事になる。
「ならば、余が時間を稼ごう」
大魔王が名乗り出た。誰かに頼まれた訳でも、等価の条件を提示された訳でもない。完全な彼の自主的、献身的な提案に、相田だけでなくその場にいた全員が目を丸くさせた。
だが、選択肢は他にない。相田とスクヴィラが重症である以上、ここにいるメンバーの中で彼が最も強い存在である。
「分かった。だが、無理はするな………そもそもお前に無理と言う言葉が存在しているとは思えないが」
相田も彼の強さを知っているが故に即決する。
「スクヴィラ」
大魔王が幼き人形に視線を下ろす。
「分かっておる。皆まで言うな」
軋む体に鞭打ちながら立ち上がったスクヴィラは、空間に魔方陣を開き、そこからボルドー達を呼び寄せた。呼び出された彼らは、主の成れ果てた姿に驚きながらも、すぐに胸に手を置いて表情を落ち着かせると、臣下として振る舞った。
最初のコメントを投稿しよう!